東電福島MOX差止裁判・MOX燃料疑惑

裁判資料:準備書面(5)■2001年1月25日提出(01/02/05up)

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第一 本準備書面の概要
第二 本件の中心的争点
第三 不正計測についての共通の原則
 一 本件MOX燃料ペレット外形寸法の基準
 二 抜取検査と不正計測の意味
第四 不正計測についての債権者の立証
 一 不正計測の背景
 二 不正計測を行いうる抜取検査の状況
 三 不正計測を強く示唆する立証
 四 本件MOX燃料の抜取検査データにみられる異常
 五 不合格ゼロの異常
第五 不正計測についての債務者の立証活動について
 一 不正事実の不存在の立証を放棄する姿勢
 二 債権者の立証に対する反論を放棄
 三 徹底した情報非開示
第六 不良ペレットを装荷した場合の安全性
 一 通産省の評価
 二 PCMI破損についての新しい知見とRIA報告書
 三 ペレット外径と安全性
第七 重大事故の影響
 一 不良ペレットを装荷した場合の事故の影響
 二 災害評価の条件
 三 MOX燃料はウラン燃料の2倍の被曝線量
 四 福島第一原発3号機で事故が起きた場合の災害評価結果
第八 立証責任
 一 本件の争点
 二 女川判決の原則
 三 本件の立証責任
結論


平成12年(ヨ)第33号

準備書面(5)

 

債権者 林  加 奈 子外
債務者 東京電力株式会社

2001年1月25日

右債権者代理人      
弁護士 海 渡  雄 一
同  河 合  弘 之
同  斎 藤  利 幸

福島地方裁判所 第一民事部御中


第一 本準備書面の概要

 債権者は、本件の中心的争点である、本件MOX燃料ペレット抜取検査における不正操作の有無について、不正操作がなされたことを強く示唆する立証を行なった。さらにMOX燃料ペレットが検査仕様値を満足していないことが証明されない場合、安全審査基準による安全評価を行うことが不可能であり、これによる安全評価が存在しないことを立証した。さらに適正な検査を経ない規格外の不良ペレットが混入した状態で原子炉を稼動すれば、事故が発生し、債権者らの身体に放射性物質が到達し、被害をうけることを示した。これに対し、債務者は、不正操作の事実がないことの立証を放棄している。債権者の申立はこれを認められるべきである。

 

第二 本件の中心的争点

「本件の中心的な争点」は、債務者も認めるように「本件MOX燃料ペレット抜取検査における不正操作の有無について」(債務者準備書面(一)P4)である。

 

第三 不正操作についての共通の原則

 

一 本件MOX燃料ペレット外径寸法の基準

 債務者が通産大臣に提出した福島第一原発の原子炉設置変更許可申請書(以下「許可申請書」という)によると、円筒形をしたペレットの円の直径にあたる外径は、「約1.04p」(甲37号ノ1P8(3)-26)と記載されており、現実の仕様範囲は「10.330〜10.370o」(甲5号P23)である。債務者も「本件MOX燃料の外径仕様は一〇・三三〇〜一〇・三七〇ミリメートルの範囲にあることが基準とされていること…は認める」(答弁書P6)としている。

 ペレットの外径を1,000分の1ミリメートル単位で規定する理由には、ペレットとそれを被う鞘である被覆管とのすき間(ギャップ)が関係している。許可申請書においては、運転中の燃料のふるまいについて以下のように記述されている。

「ペレットは、初期段階においてわずかながら体積が減少する。これを焼きしまりと呼んでいる。更に燃焼が進むと核分裂による気体状及び固体状の核分裂生成物がペレット内に蓄積すること等により、ペレット体積が増大する。これを照射スエリングと呼んでいる。

 燃料寿命を通じて、熱膨張と照射スエリングにより被覆管に過大な歪みが生じないよう、ペレット内部空孔及びペレットと被覆管の間隔を決める。」(甲37号ノ1)

 債務者は、本件MOX燃料について、法的に規定されている安全審査上の種々の手続きが、規定どおりに行なわれていることを指摘しているが、こうした手続きは、本件MOX燃料ペレットが「基準」の範囲にあることが、前提となっている。

 

二 抜取検査と不正計測の意味

本件MOX燃料の製造・検査の過程において、ペレット外径寸法の計測は、工程管理のための全数計測、品質管理のための抜取検査、債務者の立会による立会検査、の3回が行なわれていたが、本件で問題となるのは、抜取検査である。3回の計測のうち、品質管理のための検査として行なわれ、それによってペレットの品質保証がされるのは、ベルゴ社が行なった抜取検査である。立会検査はそれを検証するためのものである。抜取検査は、そもそも本件MOX燃料の品質管理が問題となる契機であったBNFL事件において、不正が行われたことが明らかになった検査である。

 債務者によると、ベルゴ社では、本件MOX燃料ペレット外径の抜取検査に際して、「(ブレンダー)あたり32個以上を抜き取るサンプル方式を採用」(甲5号P6)していた。ペレットを「検査員がデジタル式のマイクロメーターに乗せ、足踏みスイッチを踏むことにより、測定値がコンピュータのデータベースに自動的に転送・記録され」た。「通常、ペレットの外径測定は、ペレット1個あたり上部、中央部、下部の3ヵ所について採取されるが、1F3及びKK3用それぞれの生産開始時の3ブレンダーについては、ペレットを90度回転させて、更に3ヵ所(合計6ヵ所)について採取した。」(甲5号P20)「仕様をはずれるペレットが1つでもあった場合には、当該のブレンダーを不合格にする(0・1)判定を採用」(甲5号P6)していた。

不正計測とは、これら検査において、測定値を人為的に操作する行為を指す。特に本件MOX燃料については、ペレットが1つでも仕様はずれであればブレンダーごと不合格となるゼロイチ判定が採用されており、さらに債務者が「本件MOX燃料については抜取検査時に不合格となったブレンダーがなかったことは認める」(答弁書P6)としていることから、検査の対象となったペレットのうち、本来ならば仕様はずれであるはずのペレットが1個でも見つかった場合には、不正計測が有ったと見なされる。

 

第四 不正計測についての債権者による立証

 

一 不正計測の背景

1 BNFL事件と本件MOX燃料の品質問題

 本件MOX燃料についての債務者による再調査は、「12/16 BNFL社で新たなデータの不正の発覚 通産省は東京電力に対し、念のため再度品質管理データの確認を指示」(乙第8号証7枚目)とあるように、BNFL事件を受けて通産省が指示したものであり、債務者が「特に関電用MOX燃料に係るBNFL社において行われたような品質管理記録(ペレット外径)の改ざんないし捏造の事実がないこと」(答弁書P17)を調査対象としていることからも明らかなように、そもそもの契機がBNFL事件にある。

 債権者が本件の申立に至ったのは、債務者の再調査によっては、本件MOX燃料においてもBNFL事件と同様の不正の疑義が払拭されず、それどころか限られた公開情報からでも、不正を疑うのに十分な根拠が見出され、にも関わらず債務者が本件MOX燃料の装荷を強行しようとしているためであった。債権者が不正計測の疑いを強めるのは、BNFL事件を単純に機械的にベルゴ社にあてはめてのことではない。

ベルゴ社とBNFL社にはMOX燃料製造と検査の困難性という、不正の背景となる共通の基盤があり、さらにベルゴ社には、不正を行わざるをえない事情があった。

2 MOX燃料の検査に共通する困難性

 MOX燃料の場合、ウラン燃料と比べても厳重な管理が求められ、それにより検査が難しくなる。このことは、通産省が電気事業審議会に設けた諮問機関であるBNFL社製MOX燃料データ問題検討委員会(以下「BNFL検討委員会」という)が昨年6月22日にまとめた報告の中で次のように指摘している。

「燃料検査の容易性の観点からはウラン燃料とMOX燃料との間には大きな差がある。MOX燃料に関しては、従業員の被曝・健康管理、臨界管理、計量管理及び核物質防護の点で、ウラン燃料とは比較にならない厳重な管理が求められる。このため、製造工程、検査工程全体がグローブボックス等によって周辺環境から隔離されるとともに、焼結・切削加工されたペレットについては速やかに品質管理検査を行い燃料棒に挿入した後、端栓の溶接が行われ、燃料棒の形で厳重な保管管理が行われる。ペレット製造工程での加工量が数十キログラム単位で行われるMOX燃料については、これがトン単位で行われるウラン燃料に比べ、ロット単位の母集団が小さくかつ多種になる結果、検査頻度そのものも高くなる。」(甲16号P12)

 MOX燃料では、放射線がウラン燃料より多く発生する。また、プルトニウムが核分裂しやすい物質であることから、臨界に至らないように厳重に管理する必要がある。そこで、製造工程、検査工程全体を環境と隔離して、従業員の被曝を低減しなければならない。検査はグローブボックス内で行われ、少量ずつの検査が頻繁にあり、それぞれの検査には迅速さが要求される。検査員は非常に困難な作業を強いられる。こうした問題は、債務者原子力企画部長が、原子力専門誌に書いた文章においても指摘されている(甲20号P31)。

3 MOX燃料の製造に共通する困難

 製造上の困難について言えば、関西電力11月最終報告書(甲25号)に次のような記述がある。

「MOX燃料ペレットの外径研削は、臨界管理等の観点より、国内PWRのウラン燃料ペレットの湿式研削とは異なり、乾式で行われることから外径調整が難しいため、全数自動測定を行い、外径仕様外のペレットを除外し、この工程での歩留まりを向上させるために実施している。」(甲25号P3)

 プルトニウムを含むペレットの研削の場合は、プルトニウムが少量でも臨界をおこすことから、ウランだけの場合のように水をかけながら研削を行う湿式にすると、水による中性子減速のために東海村で起きたような臨界事故を起こすおそれがある。それゆえ、水をかけない乾式で行うが、その場合には、研削による熱を水で奪うことができずに、熱でペレットが膨張することによって、外径にばらつきが生じてしまう。との内容である。本件MOX燃料を製造したベルゴ社でも、研削は乾式であった。

4 ベルゴ社にも共通する製造・検査の困難性

 こうした製造・検査に際しての困難が、BNFL社での不正の基盤にあるが、ここで述べた困難は、MOX燃料の特性に由来するもので、普遍的に存在すると考えるべきである。決してBNFL社だけにある問題ではなく、ベルゴ社にも共通する。

5 不正計測を行わざるをえない状況で製造された本件MOX燃料

バーナビー博士の証言及び甲111・113号により、ベルゴ社におけるMOX燃料の製造と品質管理には問題があり、本件MOX燃料は、不正を行わざるをえない状況の下で製造されていたことが明らかとなった。

@ 「ベルギー最高裁判所は、1996年に、P1MOX工場の許可を無効とする判決を下した。判決は、ベルギーの法規が守られなかったと述べている。1996年以来、ベルゴ社は、許可を申請していない。新しい許可申請に対してもまた訴訟が起こされ、敗訴してしまうと感じているからだろう。

 P1が建設されていれば、おそらくP0は閉鎖されていただろう。P1は、P0で使われているのと同じ製造技術に基づいてはいても、近代的なオートメーション化の進んだ施設になっていただろう。P1がなければ、ベルゴ社は、古いP0でのMOX製造を続けるほかはない。」(甲113号P3)

A 「P0の製造能力の低さのため、ベルゴ社の顧客のMOX燃料の需要を満たすには、工場を製造能力の最大限度あるいは、限度ぎりぎりで操業しなければならない。実際、ベルゴ社は、許可されている最大限の40tHMでP0を操業している。

 P0の能力一杯での操業は、さまざまな影響をもたらす。生産目標を達成するようにという圧力が従業員にかかるため、データの捏造に至る可能性がある。この圧力は、不合格品としてはねるべきペレットを従業員らがそのまま通してしまうということにつながる可能性がある。」(甲113号P4)

B 「ベルゴ社は、同社のスクラップには不合格品となったペレットが含まれることを認めている。しかし、ベルゴ社のスクラップをリサイクルする能力は限られている。スクラップを最小限にするためには、不合格品としてはねられるペレットの数を厳しく最小限にすることが重要である。これが、不合格品とするペレットの数を最小限にしようという圧力を運転者にさらにかけることになる。これはBNFLにおける関西電力用のMOXの製造において起きたように、データ捏造の要因となる可能性がある。」(甲113号P6)

C 「工場のオートメーション化は、労働者の放射線被曝を減らす。P0のような古い工場は、オートメーション化が進んでおらず、したがって、労働者にとってそれだけ危険が大きい。

 二酸化プルトニウムのアメリシウムの含有量は、運転者らの被曝が、年間5mSV未満になるように、制限しなければならない。メロックスの場合は、アメリシウム241の量は、3%に制限されている。ベルゴ社の方は、1.7%である。これは、ベルゴ社では、遮蔽とオートメーション化が進んでおらず、労働者がより大きな量の放射線に曝されることになるからである。」(甲113号P7・8)このことは、ベルゴ社においては、品質管理検査は極力短時間で行わなければならなかったことを示している。

 上記の証言内容に対して、反対尋問における債務者からの反論はなかった。

また、ベルゴ社では、抜き取った32個(以上)のペレットのうち1つでも不良品が見つかれば、約7,000個のペレット全てを不合格にするという抜取方式を採っており、ペレットを1つも不合格にできない、というプレッシャーが検査員にかかっていたと思われる。これも不正計測の背景となりうる。

 

二 不正計測を行いうる抜取検査の状況

 本件MOX燃料ペレットの抜取検査においては、不正が抑止されない状況で検査が行なわれていた。

1 BNFL社とベルゴ社における抜取検査の状況

 MOX燃料ペレット外径の品質管理のための抜取検査において、BNFL社では検査員は2名がチームを組み、1人の検査員がグローブボックス内でレーザー計測装置を用いて外径を測定した数値を、すぐ横にいる別の検査員がキーボードでコンピュータに打ち込んでいた。BNFL事件の発端となった高浜原発3号機用MOX燃料データねつ造の手口は、抜取検査において検査員がペレットの測定を行わず、すでに検査を終えている別のロットのデータをコンピュータ上でコピーして検査を済ませてしまった、というものであった。

 ベルゴ社での抜取検査では、検査員はグローブボックス内に手を入れ、手作業でピンセットを使ってペレットの位置決めなどを行い、測定装置が外径を測定して測定値をカウンターに表示しそれを検査員が確認する。そして検査員が足でスイッチを踏むと測定結果が自動的にコンピュータに送られ、結果を別の検査員が別の場所で評価して、合格判定をするというやり方をとっていた。債務者は東京電力2月報告書においてベルゴ社の外径検査について「外径データの測定結果がそのままコンピュータへ転送される構成となっており、検査員による手入力は行われない。従って、検査員がデータをねつ造するようなことはありえない」(甲5号P22)としている。

2 不正計測が行いうる状況

 しかしベルゴ社での測定方法は、別の不正の形態を浮上させる。問題は、検査員は表示される測定値を確認した上でデータを送っている点にある(甲8号)。検査員がスイッチを踏まなければ、測定値はデータとしては送られず、何の記録も残らない。逆に何度も何度もスイッチを踏めば、コンピュータにアクセスしなくても、いくらでもコピーができてしまう。これは検査員の意思によってデータが変更されうる形態であり、意図的に不正な測定を行いうる形態といえる(甲7号P12)。

3 不正を抑止するものはない

 昨年7月18日付政府答弁書によると「通商産業省においては、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)から、ベルギーのベルゴニュークリア社(以下「ベルゴ社」という。)においては、ご指摘のようにウラン・プルトニウム混合酸化物(以下「MOX」という。)燃料ペレットの位置をかえるなどしてその外径を不正に計測することを防止するための機械的なシステムは備わっていないと聞いている。」(甲14号ノ2)。

あるいは、昨年8月9日付福島瑞穂参議院議員による質問主意書にある「作業員が人為的にペレットを回転させるなどして、仕様範囲のデータが得られるまでペダルを踏まずにデータを入力しなかった場合、ベルゴ社の品質部門の人間はどのようにしてその事実を把握することができるのか。また、別の人間が外径測定を評価する場合に、測定された数値でなく、その測定が不正に行われたか否かということをどのようにして認識するのか」という質問(甲74号ノ1P5)に対し、政府が9月19日付答弁書に「通商産業省においては、東京電力から、ベルゴ社において、MOX燃料ペレットの外径測定は品質部門で行われているところ、測定担当の人間が御指摘のような操作を行った場合、別の人間がその事実を把握することはできないと聞いている。」(甲74号ノ2/二の1について)と回答している。

以上からも、MOX燃料の検査時に不正を防ぐ手段はなかったことは明白である。しかもベルゴ社の場合、不正計測を検査員一人の判断で行なうことが可能である。部門が独立していることや、測定と評価が別の担当者であることはなんら不正の抑止にはならない。

4 立会検査では不正は抑止できない

 債務者は、不正が抑止される根拠に、債務者らによる立会検査を持ち出し、立会検査の様子を写したとする一枚の写真(乙27号)を証拠としている。債務者は昨年12月26日の小山英之証人への反対尋問の際にこの写真を示し、これだけ見ているのだから不正などできないではないか、と迫った。しかし小山証人は逆にこの写真から、立会検査では検査員の手元のペレットの様子を確認することは不可能であること、測定値を示す表示器を誰も見ておらず、3人の立会人が三人とも測定値の表示器を見ていない瞬間が存在すること、を明らかにした。この写真は債務者の意図とは逆に、立会検査において不正計測が可能であったことを示すことが明確になった。

 

三 不正計測を強く示唆する立証

 債権者は、本件裁判の過程において、債務者がかろうじて公表した抜取検査データと、本件MOX燃料の抜取検査結果である不合格ブレンダーがゼロであったと事実から、本件MOX燃料の品質管理検査において不正計測が行われたことを強く示唆する立証を行った。

 

四 本件MOX燃料の抜取検査データにみられる異常

 債権者が行なった立証の一つは、抜取検査データの分析により見出されたデータの異常である。

1 BNFL事件で有効性が示されたデータ分析の手法

BNFL事件では、MOX燃料ペレット外径の品質管理のための抜取検査データ及び工程管理のための全数計測データが公開された。小山氏らは、それら公開データから、ロット(本件MOX燃料ではブレンダーに相当)ごとに、1ミクロン刻みの分布図を作成し、ロットごとに抜取検査データと全数計測データの分布形状を比較するという手法で、あるいはさらに検定理論を適用することによって、関西電力が「不正はない」とし、通産省もその判断を「妥当である」としていた高浜原発4号機用MOX燃料についても、データ不正があることを突きとめた。ロットP824を始め、小山氏らが不正があると指摘していたロットは、のちに関西電力も不正の事実を認めており、不正の有無の確認にこうした手法が有効であることが示された。

2 債務者が公開した抜取検査データ

 本件MOX燃料についての債務者の再調査は、前述のように、BNFL事件を受けて通産省が指示したものであり、この事件を教訓とするのであれば、抜取検査データ及び全数計測データについては、これを公開した上で、ブレンダーごとに分布形状を比較して不正の有無を確認する作業が行われてしかるべきであった。しかし債務者が公表したのは、抜取検査データについて、複数のブレンダーを含むロットごとの4ミクロン刻みの分布図だけであった。債権者は、4ミクロン刻みのデータでは、不正があってもその異常が隠されてしまうことを、高浜原発4号機用MOX燃料のロットP824のデータを4ミクロン刻みに加工して示すことによって立証した。これに対する債務者の反論は一切なかった。1ミクロン刻みのブレンダーごとのデータを公開せよという債権者の再三の要請について債務者は、その存在を確認しておきながら、ベルゴ社に対して情報開示の可能性について再度問い合わせることすらしなかった。また、全数計測データについて債務者は、昨年3月から、公式には保存されていない旨を述べていたし、準備書面(二)においては、「ベルゴ社から、現在それを所持していないとの報告を受けている」(債務者準備書面(二)P16)と記している。

3 抜取検査データの分析手法とその妥当性

 債権者の依頼を受けた小山氏は、こうした制約のある条件の下で、抜取検査データの分析を行った。その結果、本件MOX燃料についてもデータの異常が見出された。これは、本件MOX燃料の検査においても不正の事実があったことを強く示唆する証拠となるものである。

 小山氏は以下の手法をもちいた。すなわち、債務者が公開した4ミクロン刻みの抜取検査データについては、このままでは不正による異常が隠れてしまうことから、4ミクロン刻みの区間ごとに抜取分布が2次関数で近似されると仮定し、1ミクロン刻みの分布図を予想するという作業を行った。抜取検査分布として、この予想分布を用いることとした。そして、比較の相手としては、全数計測データの分布に代えて、平均値と標準偏差から作成できる正規分布を用いた。正規分布と比較したのは、何か人為的な操作がなされない限り、データのばらつきは正規分布に近づく、という統計学上の知見によるものであった。ただし、例えば山が2つあるようなグラフは、必ずしも正規分布と比較しなくても、それ自体が何らかの異常性を示していると考えるべきであることは、言うまでない。

 まず、1ミクロン刻みの抜取検査データが公開されているBNFL社を例にとって、この手法の妥当性が検証された。その結果、1ミクロン刻みの予想分布は、元の抜取分布の大まかな傾向をほぼ再現すること、ただし元の抜取分布を完全に再現するものではなく、そのデコボコを均したような、ある種の平均を通ること、が認められた。この検証から、予想分布がほぼ正規分布に近いからと言って、元の抜取分布が正規分布をしていると言う保証はないこと、他方、逆に予想分布が正規分布から相当にずれた場合、元の抜取分布は、恐らく著しく正規分布からずれていると結論できること、を確認した上で本件MOX燃料のデータの分析にあたった。

4 不正計測を強く示唆するデータの異常

 本件MOX燃料については、公開データがブレンダーごとではなく、ロット単位にまとめたものであったことから、16のロット全てについて上記の手法を適用した。すると、予想分布が正規分布からある程度ずれたと認められるものが2つあり、確実にずれているものが4つあった。このことは現実の抜取分布は、正規分布からさらに著しくずれていることを示唆するものであった。

 4つの異常を示す分布図は、さらに2つのパターンに分かれる。1つは、予想分布に第2の山が見られるもので、ロット1604が例となる。これは10.360mm付近に第2の山があるが、これが実際には、もっと大きいはずである。債務者は、準備書面(二)において、「本件MOX燃料ペレットの製造に際しては、仕様から外れたものを製造ラインから除外する自動全数選別のプロセス及び仕様値より内側に想定された管理値をもって砥石の幅を調整する人為的プロセスが製造ラインに付加されたため、個別ロット(ないしブレンダー)各々について必ずしも正規分布になるとは限らない」(債務者準備書面(二)P14)と述べ、このような歪みが起こる可能性として、製造工程での砥石の調整によるものである可能性を挙げている。この点は、砥石の調整の記録データがあれば、このような歪みが、砥石の調整のためであることを立証することが可能である。しかし債務者は、この異常が確かに砥石の調整のためであるという立証をしていない。

 もう1つのパターンは中心付近に異常にデータが集められた形をしているもので、ロット1607がその例となる。中央付近が異常に盛り上がった形状をしているこのロットの場合、歪みの原因が砥石の調整では説明がつかず、抜取検査において何か人為的な操作がなされたとみるしかない。

 以上の立証は、甲64号においてなされ、さらに昨年12月26日の証人尋問において、小山氏の証言の主尋問において丁寧な説明があった。この時の反対尋問において、債務者は一切反論しなかった。

 

五 不合格ゼロの異常

1 債権者の立証

 債権者は、不正が行われたことを強く示唆するもう1つの証拠として、「本件MOX燃料については抜取検査時に不合格となったブレンダーがなかったことは認める」(答弁書P6)とした事実が異常であり、何か不正な操作が行われない限り現実にはありえないことを立証した。

 まず、申立書と甲第2号証の小山氏の陳述書により、本件MOX燃料の抜取検査時のペレットの不良率をBNFL社と同等の約1%と仮定した場合、約36%のブレンダーが不合格となることが、統計的な公式から明らかにされ、不合格がゼロである事実が異常であることが示された。さらに甲45号の阪上陳述書においては、まず、本件MOX燃料の抜取検査におけるブレンダーごとの抜取数の推定がなされ、次いでその推定表と、小山氏の陳述書で示された公式に従い、抜取検査において、本件MOX燃料全70ブレンダーが全て合格し、不合格がゼロとなる確率が算出された。その結果、検査時のペレットの不良率を本件MOX燃料で設定されたAQLである0.15%と仮定した場合に、不合格ゼロとなる確率が約1.36%となり、統計学上の常識では現実には起こりえない確率であることが示された。このとき用いた抜取数の推定表について、債務者からの反論はない。

2 問題は不良率の想定

 これに対し債務者は、準備書面(一)および祢津陳述書において、ベルゴ社での不良率がBNFL社の200分の1である可能性を示し、債権者の立証を誤りであると決めつけている。しかしベルゴ社の不良率がBNFL社の200分の1である可能性を示しただけでは、債権者の立証の全てを誤りとすることができないのは明らかであり、むしろ、債務者の指摘は、ベルゴ社の不良率がBNFL社の200分の1程度までに、相当低いことを示さなければ、債権者の立証に反論することができないという自らの立場を明らかにしたものと言える。問題は、ベルゴ社の不良率をAQLと同じ0.15%程度、あるいはそれ以上とみなす事が妥当であるのか、あるいは債務者の言うように、BNFL社の200分の1程度であるとみなすことが妥当であるのか否かである。

3 不良率をAQLと同等と想定することの妥当性

 この点について、債権者は、バーナビー博士の証言及び甲111・113号により、

@ 「BNFLは、SBR法で作るペレットの場合、プルトニウムの凝集塊の最大直径は100ミクロンになり、直径20?30ミクロンを越えるプルトニウムの凝集塊は、ほとんどないと主張する。MIMAS法のMOXでは、直径140ミクロンのプルトニウム凝集塊が発見されている。しかし、これらの主張は、実験用ペレットについての非常に限られた研究に基づくものである。

 結論として、ベルゴ社の使用するMIMAS法で作られたMOXペレットでは、大きなプルトニウムのホット・スポットが生じるといえる。これは、ベルゴ社のMOXペレットは、BNFLのSBR法で作るMOXペレットより均一度が低いということを意味している。」(甲113号P5)と、プルトニウムスポットの比較からベルゴ社で採用しているMIMAS法というMOX燃料の製造方法は、BNFL社で採用しているSBR法と比べても劣ることを示し、

A ベルゴ社の品質管理能力がBNFL社よりも劣ることは、「べルゴ社の製造基準がBNFLよりも、とりわけ均一性に関して、弱いということからして、ベルゴ社の品質管理基準は、BNFLのものより弱いというのがわれわれの結論である。この結論は、品質管理の際のペレットの検査の頻度が、BNFLの低い基準とくらべても、非常に低いということから、さらに正当化さえるとわれわれは考える。ベルゴ社の品質管理の数字を見れば、これがはっきりする。プルトニウム富化度のテストでは、その頻度はBNFLの4%である。不純物のテストが22%、目視検査が46%、アルファラジオグラフィーが72%である。」(甲113号P8)との各種検査の頻度の比較からも明らかであること、を示した。

@に関しては、債権者は甲65号を提出している。さらに債権者は、本件MOX燃料を製造したベルゴ社のP0工場が、BNFL社のMDF工場と比べても古く、機械が旧式であること、ベルゴ社の方が劣ることが示された混合技術以外で、ペレットの性能に関わる焼結技術や研削技術は、ベルゴ社とBNFL社で同じものが採用されていること、全数計測データの保存状況を比較してもBNFL社の方が品質管理能力はすぐれていること、を挙げ、ベルゴ社の製造能力・品質管理能力をBNFL社よりも格段にすぐれているとはとても言えないことを示した。日本のウラン燃料加工工場では、ペレットの全数外径計測記録を保存している(甲119号)。

 さらに、小山氏の証言により、ベルゴ社の不良率をAQLと同等であるとみなすことの妥当性が以下の手順で示された。

@ 本件MOX燃料のペレット外径の仕様の幅は40ミクロンであるが、これは、標準偏差を5ミクロンとした場合の8倍の数値をとったと思われる。

A AQLが0.15%で標準偏差5ミクロンの正規分布を仮定した場合、平均値が仕様の中心から約5ミクロン以内であることが要請される。

B 実際のデータでは、標準偏差が5ミクロンと6ミクロンであるロット数が約44%であるので、必ずしも余裕のあるとり方とはいえない。中には平均値が、仕様の中心から5ミクロン離れたロットも存在する。

C 本件MOX燃料では仕様の幅をBNFL社の1.6倍と大変広く取っているが、このことは、AQLが0.15%と小さく取っている(BNFL社の場合AQLは1%)ことに反映しているはずなので、仕様幅が大きいから不良率がAQLよりずっと小さいとはいえない。

D BNFL社の場合、AQLは1%であった。これに対して実際の不良率(約1.25%)は1%を超えていたが、不良率はほぼAQL程度となっていると評価できる。AQLは設備能力と経済性とのかねあいから決まるべきものなので実際の不良率がAQLよりずっと小さいなどと言うことはありえない。故に不良率はAQL程度と評価するのが現実的である。

E 債務者は、本件MOX燃料と同じ工場で同時期に製造された、東京電力柏崎刈羽原発3号機用MOX燃料に関しては、不合格ブレンダーが存在したことを明らかにしている。本件MOX燃料も同じ設備で製造されているので、不合格が実際に出る程度の製造能力と見なすべきである。

 

第五 不正計測について債務者の立証活動について

 

一 不正事実の不存在の立証を放棄する姿勢

本件は半年に及び審尋と証人尋問が継続し、その間に書面のやり取りが繰り返されたが、債務者は、債権者の立証に対して最後までまともに向き合わず、希望的結論だけを述べて証拠は示さない、というやり方を繰り返した。およそ立証活動とは言えないものであった。

こうした債務者の姿勢を明確に表すのが「そもそも不正事実の不存在などという消極的事実について債務者が立証責任を負わないことは言うまでもない。」(債務者準備書面(二)P3)との記述である。債務者は、この裁判の中心的争点を不正の有無と認めながら、不正の無い事の立証責任を明確に放棄した。

 そればかりではない。同じ準備書面において「BNFL社とは異なり何ら不正の疑義がない状況において、これ以上のデータ公開を要求しそれを実現しえないことはやむをえないところである。」(債務者準備書面(二)P18、7行目)と述べ、債務者は、ベルゴ社にははじめから不正の疑義はなく、データ公開の要求すらしなくてもよいという姿勢であることを明らかにした。この姿勢は、債務者が、不正のないことの立証そのものを放棄したとみなすべきものである。

1 不正事実の不存在の立証はデータ分析によるしかない

検査は不正が防ぎえない状況で行われた。このことは政府答弁書で既に明確になっている。債務者は一般的な品質管理体制の確認によって、不正事実の不存在を立証することはできない。製造前確認試験や立会検査についても、方法の詳細や計測結果を示さずに、債務者が確認した、という債務者にとっての希望的結論を示すだけでは立証にならない。不正事実の不存在の立証はデータの分析によるしかなく、その場合には、データ公開が不可欠であることは明らかである。

BNFL事件について言えば、高浜4号機用MOX燃料でも不正があったことが明確になったのは、誰(市民団体、BNFL社の内部調査及び外部委託調査、NII、関西電力及び三菱重工)が行なったにしろ、その方法は唯一、データ分析によるものであり、不正の有無をロットごとに検証したからであった。

2 はじめから不正の疑義はないとの姿勢

はじめから「何ら不正の疑義のない」という姿勢をもって行った再調査によって、不正事実の不存在の立証などできようはずがない。このことは、BNFL事件における関西電力の姿勢からも明らかである。関西電力は、現地調査を行い、検査員からの事情聴取まで行いながらも、BNFL社製高浜4号機用MOX燃料の検査において不正があった事実を発見できずに、「不正はない」と結論する最終報告書(関電11月報告書、甲25号)を国に提出した。関西電力は、プルサーマルを推進せんがために、高浜4号機用MOX燃料に関しては、はじめから不正の疑義はないと決めつけ、不正の疑いを指摘するNIIを否定し、不正はないと主張するBNFL社と共に、不正を否定し続けたのである。債務者の姿勢はこのときの関西電力と全く同じであり、同じ過ちを繰り返そうとしている。

3 形だけのデータ公開要請

債務者は昨年1月の段階でベルゴ社に抜取検査データの開示を要請していたと言う(乙28号ノ1・2)が、今明らかになった債務者の姿勢から判断すると、これはポーズだけであったとしか考えられない。このことは、債務者がデータ開示の要請を昨年1月以降は一切行っていないこと、裁判提訴後に債権者から、さらには地元自治体・議会や住民らからの再三の要求(債権者準備書面(二))があっても、ベルゴ社に開示の要請すら一切行っていないことからも明らかである。今年1月18日の裁判所による求釈明により、債務者はベルゴ社に対しデータ開示の要請を行なうのが当然であるが、それも行われないとすれば、債務者自身が開示を拒否していると言うしかない。

4 開示されているデータでは不正の有無を立証できない

債務者が不正事実の不存在の立証を行なっていないことは、開示されたデータからも明らかである。債務者が2月報告書(甲5号)において開示したデータには、加工が施されており、統計的分析には耐えられない事は、市民との交渉の場で債務者自身が証言している(甲45号P3)。本件において債権者は、加工は不正による異常があってもそれを隠してしまうという主張(申立書P28・29・甲46号P2〜)を行なっているが、これに対し、債務者は一切反論していない。また、4ミクロン刻み分布が、1ミクロン刻みのものとは異なる形状を示すことについては、昨年12月13日に市民団体と通産省の担当者との交渉の場において、通産省担当者も「理論的にはありえる。当然グラフの形が違うと思う」(甲114号)と述べている。

5 4ミクロン刻みへの加工はベルゴ社ではなく債務者が要請―ル・モンド紙による最新の報道―

 今年1月20日付けフランスのル・モンド紙によると、「ベルゴニュークリア社のイヴォン・ヴァンデルボルクMOX部長は…(公開された)ペレットの単位が4ミクロンであることは認めているが「それは顧客側からの指定によるものだ」と語っている。」(甲117号)この事実は、不正による異常があってもそれを隠してしまうように加工を要求したのは、ベルゴ社の側ではなく、債務者自身であったことを示しており、データの加工がベルゴ社の都合によるものとする債務者の主張は根本から覆ることになった。債務者は1ミクロンデータが出せないのは、ベルゴ社の要望によるものと説明してきたが、このような説明がウソだったことになるのである。債権者と裁判所を欺こうとして債務者の不誠実な態度は決定的であり、債務者自身がデータの操作を隠蔽しようとしていたことが明らかである。

6 債務者自身も未確認

不正操作の有無の確認において、有効性がBNFL事件の経過で明らかとなった1ミクロンデータの形状の比較検討については、データが一般に開示されないばかりでなく、債務者自身もこれを行っていない。すなわち債務者自身も不正がない事を確認できていない。データの分布形状について債務者が確認したのは、ベルゴ社と協議の上、債務者の指示により4ミクロン刻みに加工して作成させ、債務者自身が不正があっても隠れてしまうことを認めるデータだけである。債務者はブレンダーごとの1ミクロン刻みのグラフを作成していない。このことは、「東電が百パーセント確認していることを示す」よう求めていた福島県知事の要請(甲56号)にも反する。

7 通産省の指示に反する

そもそも本件MOX燃料についての債務者の再調査は、BNFL事件を受けて通産省が指示したものであったが、債務者の姿勢はその指示にも反する。

8 品質保証の第一義的責任は債務者にある。

通産省諮問機関(BNFL検討委員会)の報告に「電気事業者の調達先に対する調査等は一義的には電気事業者が行なうべき」(甲16号P24)「まず電気事業者自身が…しっかりした品質保証体制を確立することがなにより重要」(甲16号P22)とあるように、国は、MOX燃料の品質保証について、その第一義的責任を電気事業者に負わせている。国は、本件MOX燃料の輸入燃料体検査に際して、ベルゴ社に調査に赴きながらも、品質管理データの開示を受けていないことからも明らかなように、品質保証の確認を独自では行っておらず、あくまで電気事業者がきちんと確認を行っていることを前提としている。この期におよんで、債務者が不正のないことの立証責任を放棄すれば、本件MOX燃料の品質について責任をもってこれを保証できる者は誰もいなくなってしまう。

9 地元自治体や住民の要求を踏みにじるもの

債務者の姿勢は、国の説明会でも明らかになった地元住民の不安の声を無視する態度である。債権者の要求のみならず、福島県知事、柏崎市長、柏崎市議会の要求(債権者準備書面(二))、さらには刈羽村村議会の要求を踏みにじるものである。本件と同じく、MOX燃料の装荷が予定されている東京電力柏崎刈羽原発3号機の地元自治体である刈羽村議会においては、昨年12月26日に、プルサーマルの是非を問う住民投票条例案が議員提案により一旦は可決成立した(甲123号ノ1)。その後この条例案は、村長の再審議の決定を経て廃案となったが、村議会はあくまで、住民投票を行なうべきとの姿勢を決議において示した(甲123号ノ2)。現在、村議、村民らが有権者による直接請求によってこれを実現するための手続きが進められている。

10 不正がないことの立証がされない限り装荷は認められない

不正事実の不存在が立証されない限り、MOX燃料の安全性は保証されない。債務者が立証を放棄した状態で燃料の装荷が認められないのは当然である。

 

二 債権者の立証に対する反論を放棄

 債務者は、債権者の行なった不正を強く示唆する立証に対し、反論を行なっていない、あるいは反論を途中で投げ出した。

1 「不合格ゼロが異常である」に対する反論を途中で放棄

本件MOX燃料の抜取検査において、不合格ブレンダーがゼロであった事実は、不正な操作なしにはありえない、という債権者の立証に対し、債務者は答弁書において明確な反論をしなかったことから、裁判所は、9月18日の第2回審尋において、債務者に具体的に反論するように求めた。これに対し、債務者は、祢津陳述書及び準備書面(一)において、ベルゴ社で製造されたMOX燃料ペレットの不良率が、BNFL社の200分の1となる可能性があることを示した。しかし、これが現実にそうであるとの立証はなされていない。債権者は、債務者の評価が、抜取検査データ全体の平均値と標準偏差に基づいたものでしかないことから、ブレンダーごとの評価が必要であること、その際、抜取検査データが不正によって操作されていないかどうかを1ミクロン刻みのデータで確認する必要があることを、債権者準備書面(三)で指摘し、これを行うよう求めた。ところが、債務者は準備書面(二)において、「200分の1」の立証を行うどころか、「一〇〇パーセント発生すると主張しているのではなく」「十分考えうること…を明らかにしたにすぎない」(債務者準備書面(二)P13、4行目)などと言って、この評価そのものをひっこめてしまう態度に出た。結局この問題についての債務者の反論は放棄されたままである。

2 「抜取検査データにみられる異常」に対する反論なし

債権者は、不正計測を強く示唆する証拠として、本件MOX燃料の抜取検査データに異常が見られる点を挙げ、甲64号の小山氏の陳述書及び債権者準備書面(三)にて立証を行い、さらに小山氏の証人尋問においても立証がなされた。これに対して債務者は、債務者準備書面(二)において何ら反論をせず、小山証人の反対尋問においても、反論を全く行なわなかった。

債務者は、1ミクロン刻みのブレンダーごとのデータを公開した上で、債権者の指摘するデータの異常について説明を行なわなければならない。それがなされない限り、債務者は、不正事実の不存在の立証を完全に放棄したこととなる。

 なお、前述のように、債務者は、準備書面(二)15頁において、債権者が分析を求める1ミクロン刻みのブレンダーごとの分布が正規分布とは異なることを示唆し、その原因が砥石の調整によるものである可能性を指摘しているが、このことは、まさに1ミクロン刻みのブレンダーごとのグラフの形状の異常を示唆するものであって、その形状の確認が是非とも必要であることを示すものである。形状の異常が見出された場合には、それが研削機の調整によるものなのか、あるいは人為的な操作によるものが吟味されなければならない。

債務者は続けて「多数のブレンダー(ペレット全数)を対象にすれば、それぞれの研削の過程において砥石調整を受けているときのものか否かは偶発的要因にすぎない」(債務者準備書面(二)P15・16)と述べるが、これは、多数のブレンダー(ペレット全数)を対象にすれば、不正操作による異常があってもそれが隠されてしまうことをも認めるものである。こうしたやり方が、不正計測の有無のチェックにはならないのは明らかである。債権者が一貫して要求しているのは、ブレンダーごとのデータ分析である。

 債務者は、砥石の調整については、可能性を示唆するだけで、それをデータに基づいて立証することを一切行わない。砥石の調整の実体については、BNFL事件の過程では、関西電力が、全数自動計測装置の性能を確認するために、1つのロットについて、砥石がどの時間に調整されたのかを残された記録から調査し、これと全数自動計測結果を付き合わせるという作業を実際に行なっている(甲25号参考1)。債務者も同様に、砥石の調整状況を、現場の記録から調査し、これを明らかにすることができるはずである。ここでも記録がないとすれば、砥石の調整によるものとの立証はなされていないことになるし、さらにはベルゴ社の品質管理能力が問われることになる。

 

三 徹底した情報非公開

1 債務者の徹底した情報非開示の姿勢

債務者が立証を放棄する姿勢は、徹底した情報非開示の姿勢に如実に現われている。債務者は、本件においても、債権者の求めるデータはおろか、東電2月報告書にある情報より踏み込むものを一切出していない。立会検査の写真(乙27号)も東電2月報告にあるものであった。

こうした姿勢は、債務者がBNFL事件から逆の教訓をえての行動、すなわち、関西電力のように、データを公開して不正が明らかになることを恐れてのものとしか思えない。不正があることを知っていての態度か、あるいは住民の安全をないがしろにしてでもプルサーマルを推進しようと、ベルゴ社を盲目的に信じての態度か、ともかくBNFL事件やJCO事故から何も反省していないことは明確である。

債権者はただ闇雲に情報公開を求めているわけではない。不正の有無を確認するために、最低限必要なものとして、債務者がその存在を確認している抜取検査データを開示して、ブレンダーごとに1ミクロン刻みの分布形状の分析を行うこと、その必要性、その有効性を再三にわたって指摘しているのである。

企業秘密は、データの非開示の正当な理由にはならない。事は原子力に関わる問題であり、住民の安全に直接関わる問題である。なぜ情報開示の要求すらしないのか。なぜベルゴ社に対して買主の権利を行使しないのか。なぜ住民の安全よりも企業秘密を優先するのか。こうした態度は、原子力学会倫理規定案に象徴される昨今の原子力関係者の姿勢にも相容れないし、通産省の諮問委員会での議論内容にも反する。

それに、そもそもベルゴ社が秘密にすべき競争相手は誰なのか。国が市民の質問に答えたベルゴ社の競争相手とは「例えばBNFL」(甲122号)であった。そのBNFL社はすでにデータを開示しているのである。

2 裁判所による求釈明

 今年1月18日に裁判所より債務者に出された求釈明は、こうした債務者の姿勢に対する強い批判のあらわれと受け止める。債権者としても、債務者が釈明を求められた全ての項目に、証拠をつけて丁寧な釈明を行い、併せて債権者が要求する、データの開示と、債権者の立証に対する、証拠に基づいての反論を改めて要求する。これがなされない場合には、裁判所は不正の事実を認め、債権者の求めるMOX燃料装荷の差止を認める決定を下す他ないのである。

 

第六 不良ペレットが装荷された場合の安全性

 

一 通産省の評価

まず、不良ペレットを含んだMOX燃料の安全性について、債務者が持ち出す通産省の評価(乙一〇号)について言えば、「通常運転」ないし「異常な過渡変化」における燃料の健全性を評価したものであり、制御棒落下事故などの反応度事故の想定はない。しかも、あくまで計算上の話である。

 

二 PCMI破損についての新しい知見とRIA報告書

1 安全審査は事故の解析と安全評価を要求

制御棒落下事故などの反応度事故について債務者は、「発電用燃焼の進んだ燃料の取扱いについて」(甲44号、以下「RIA報告書」という)その他の指針を取り上げ、これら報告書や指針に従っての評価が行われたと主張する。しかし、これら報告書や指針では不良ペレットの使用は一切考慮されていない。「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(甲39号ノ1)に、「原子炉施設の安全設計の基本方針の妥当性を確認する上では、異常状態、すなわち『運転時の異常な過度変化』及び『事故』について解析し、評価を行うことが必要である。」(甲39号ノ1)とあり、債権者が準備書面(三)第三の三の4に記したように安全審査は『事故』の解析と評価を要求している。制御棒落下事故は、この「事故」にあたるものであるが、以下に示すように、この事故に照らして、本件MOX燃料MOX燃料ペレットが検査仕様値を満足していないことが証明されない場合を検討すると、安全審査基準による安全評価を行うことが不可能であり、これによる安全評価は存在しないことが明らかとなる。

2 RIA報告書とPCMI破損しきい値

RIA報告書では、事故時に発生する熱量(1gあたりの熱量calを「燃料エンタルピ」と呼ぶ)に対して、燃料がPCMI破損を起こすしきい値が定められている。事故評価の過程は、まず制御棒落下事故を想定し、事故によってどの程度の熱量(燃料エンタルピ)が加わるかを解析し、次に定められたPCMI破損しきい値を超える熱量が加わる燃料棒については、PCMI破損が生じることとし、そこから破損本数を割り出し、どの位の放射能が放出されるかを評価するのである。

RIA報告書は、日本原子力研究所(以下「原研」という)で行なわれたNSRR実験と呼ばれる実験(甲118号P13)やフランスのカブリ炉での新しい実験事実により、燃焼が進んだ燃料で制御棒落下事故を想定した模擬実験を行なうと、PCMI破損が従来の指針(乙9号)で定められていた破損しきい値よりも小さい熱量で発生することが明らかになったことから、破損しきい値の変更が余儀なくされ、平成10年に作られたものである(甲44号P12)。従来の指針は、新品の燃料を用いた実験事実をもとに破損しきい値が定められており、燃焼の進んだい燃料に関しては、アメリカで1960年代に行なわれた唯一の実験結果により想定されていた。

福島第一原発3号機の場合、平成9年以前の許可申請書の制御棒落下事故についての事故解析では、従来の指針に従い、破損しきい値として燃焼の進み具合に関わりなく92cal/gを用いていた(甲125号10-3(3)-21)。これに対し、原研のNSRR実験では、関西電力の大飯原発や高浜原発で実際に燃焼させた、燃焼の進んだウラン燃料を用いた実験において、60 cal/gや77 cal/gという従来の指針の基準よりも小さい熱量(燃料エンタルピ)で、燃料がPCMI破損を起こした(甲44号添付1P1-6〜)。フランスのカブリ炉では、わずか12 cal/gで破損している。燃焼の進み具合は「燃焼度」で測られるが、燃焼が進み、燃焼度がより高いほど、より低い熱量(燃料エンタルピ)でPCMI破損が生じる事実も明らかになった。RIA報告書はこうした知見をとりいれて、燃焼の進み具合(燃焼度)に応じたPCMI破損しきい値を新たに定めたのである。なおカブリ炉の12 cal/g の事例は、余りに低いためか、理由を付けてしきい値を決める参考から外している。

3 燃料は破裂し粉々に

それだけではない。燃焼が進んだ燃料でPCMI破損が起こると、燃料も破裂し粉々に飛び散ることも新しくわかった(甲44号添付1P1-6〜)。そこで、単に燃料が損傷するというだけでなく、飛び散った燃料が引き起こす圧力による炉内損傷の可能性、放射能放出の評価、破損燃料の冷却までも、考慮しなければならなくなった(甲44号添付資料)。

4 燃焼が進んだMOX燃料用いての実験はこれから

福島第一原発3号機において、本件MOX燃料導入に際して、債務者が平成10年に行った原子炉設置許可変更申請においては、債務者も認めるように、このRIA報告書の新基準が取り入れられている。しかし、PCMI破損しきい値を決めるために参考にした実験は、実際の原発で燃焼させたウラン燃料を用いたものであり、燃焼が進んだMOX燃料についてはほとんど事例がない。

前述設置許可変更申請において許可を受けているMOX燃料の燃焼度は、燃料集合体平均の最高で約40GWd/t(甲126号P32)である。ペレット最高でいくらであるかは明らかにされていないが、BWR用ウラン燃料の場合、燃料集合体平均の最高が約55GWd/tの時のペレット最高燃焼度が約75GWd/tである(甲44号P1)ことから、この比率をそのまま適用すると、ペレット最高燃焼度は約55GWd/tとみなされる。

RIA報告書において、PCMI破損しきい値を決めるために参考にした、燃焼度40GWd/tを超える燃焼が進んだMOX燃料の実験例は、フランスのカブリ炉で行なわれたわずか2例にすぎない(甲44号添付1P1-19)。うち1例は、やはり従来の指針よりも低い熱量で破壊が起きており、しかも、破壊して飛び出した燃料により「冷却材流路閉塞」まで生じている(甲44号添付1P1-19)。またBWR原発用MOX燃料については、まったく事例がないといってよい。1999年に報告が出された、NSRR実験でのATR用MOX燃料を用いた実験は、燃焼度が低いもの(20GWd/t)であった。NSRR実験での、燃焼が進んだMOX燃料についての実験は、まさにこれから行なわれようとしているのである(甲118号P18)。

5 不良ペレットを用いての実験事実はない

ましてや、はじめから燃料ペレットと被覆管のすき間(ギャップ)のない不良ペレットを用いての実験事実は全くない。実験事実がなくては、PCMI破損しきい値を決めることができず、となれば、制御棒落下事故の事故評価などはできないのである。

 債務者は通産省、原子力安全委員会の安全性評価結果が「MOX燃料ペレットと被覆管ギャップの有無に関係なく」(債務者準備書面(二)P23)出されているように言うが、これらの評価にギャップについての記述がないのは、ギャップが仕様値を外れるような不良ペレットを使用した場合の評価などやりようがなく、はじめからそのような想定をしていないという理由からである。

 

三 ペレット外径と安全性の問題

1 燃焼が進んだときの燃料のふるまい

 燃焼が進むにつれてペレットの外径と被覆管の内径がどのように変化していくのかの計算を、関西電力が行った例が甲120号である。これは事故などの異常事態を想定したものではなく、通常の運転で、運転を続けるうちにどうなるかを計算したものである。第3.2.6(1)図の実線が通常のウラン燃料であり、第3.2.6(2)図がMOX燃料である。

 被覆管内径グラフは、はじめのうち、運転時間とともに次第に下がっている。これは外側の冷却水の水圧によって被覆管が縮んでいくためである。MOX燃料の方が下がり方が激しいのは、被覆管が縮むのを抑えるためにあらかじめ被覆管内に封入されるヘリウムガスの量が、ウラン燃料よりも少ないためと考えられる。他方、ペレット外径グラフは次第に上昇している。これは、ペレット内部に核分裂生成物(気体状のもの)が増えて膨張するためである。特にMOX燃料の場合、プルトニウムやアメリシウムから出る多くのアルファ線と呼ばれる放射線がヘリウムガスとなってこれに加わる(アルファ線の実体はヘリウムの原子核である)。MOX燃料ペレットの膨張の仕方がウラン燃料よりも激しくなっているのはそのためと思われる。こうして、ペレットは膨張し、被覆管は収縮して、ついにすき間(ギャップ)が消滅し、それ以後はペレットの膨張に押されて被覆管も一緒になって膨張していく。すき間(ギャップ)のなくなる時期はウラン燃料よりMOX燃料のほうが相当に早く、その後の膨張の仕方も大きいので被覆管の痛みが激しいということになる。

他方、被覆管の方は、燃焼が進むにつれ、水と被覆管の材料との反応によって表面が酸化していく。これにより冷却水は酸素を奪われ、水素が残るが、この水素が被覆管の材料に吸収され、被覆管は水素脆化を起こし、脆くなって壊れやすくなる。

2 通常運転中でも発生する燃料棒破損

 こうして、ペレットの変形と被覆管の脆化が同時進行し、両者が相まって「燃料の健全性」が著しく損なわれるのである。場合によっては、通常運転中でも燃料棒が破損することがある。この様子がNSRR実験についてのパンフレット(甲118号P14)に記されている。ペレットの膨張により、燃料棒そのものが大きく膨らみ、さらに被覆管に割れが生じている様子が写真で説明されている。

事実、美浜原発1号機では、燃料棒の上部が破損するという事故を過去に起こしている。当時関西電力は、この事故を1973年春の定期点検で発見していながら、3年以上もひた隠しにしていた。(債権者準備書面(三)P62)

3 制御棒落下事故時のPCMI破損

 「燃料の健全性」は反応度事故のときに典型的に問題となる。反応度事故とは何らかの原因で炉の中性子が急激に増え、核分裂反応が急激に進むような事故である。このとき、燃料の温度が急上昇するため及び核分裂によるガスが大量発生するために、ペレットが急膨張して燃料と被覆管が破壊される恐れが生じる。BWR原発の場合、このような設計基準事故として「制御棒落下事故」を想定しなければならず、電気事業者は、このような事故においても、安全性に関する判断基準を満たすことを証明しなければ原子炉設置(変更)許可は得られないのである。

 制御棒が落下すると、それまで制御棒に吸収されていて平衡状態を保っていた分の中性子がウランやプルトニウムと余計な反応を始め、反応度(従って出力)が一挙に高まる。この間に、燃料は一挙に燃え、燃料の温度が高まり、従って燃料の保有している熱量が高まる。燃焼が一気に進むと、核分裂によって多量のガスが燃料ペレット内で発生し、ペレットが一挙に膨張して燃料被覆を中から急激に押す。そうなると燃料と被覆管がほぼ同時に破裂し、高温の燃料が粉々になって冷却水中に飛び散ることもある。これがPCMI破損である。以上のPCMI破損の発生するメカニズムが、甲118号P15に概念図により説明されている。

4 ペレット外径とPCMI破損

右考察した燃料のふるまいと、PCMI破損の発生メカニズムからみて、燃焼が進むにつれて、PCMI破損しきい値が下がる事実は、破損の発生条件が、燃料が、燃焼が進むにつれてギャップが埋まり、健全性が損なわれていくことと大いに関係があることを示している。ギャップが埋まる速度がウラン燃料よりも速いMOX燃料や、はじめからギャップのない不良ペレットでは、通常のウラン燃料よりもさらに、PCMI破損が発生しやすいとみなされるべきである。これを明確に否定するような実験事実はない。逆にBWR原発用燃料を用いた最新の実験事実は、ギャップがPCMI破損の発生条件に関わること示している。

5 BWR燃料についての最新の知見

RIA報告書が参考にした実際に破損を起こした実験事実は、すべてPWR原発用燃料についてのものであった。しかし、燃焼が進んだ燃料において、燃料の破損あるいは破壊が、従来の指針よりも小さい熱量で発生することが、BWR原発用燃料でも起こることがごく最近明らかにされた(甲124号)。実験は、福島第二原発の燃料を用いたもので、結果は以下のようなものであった。

「NSRRにおける最近の2つのBWR燃料の実験、FK-6とFK-7では、著しい被覆管の破損と燃料の飛散が起こった。これらの2つの燃料棒はいずれも8×8のジルコニウムライナー被覆管を採用したステップU型燃料棒で、福島第二原発2号炉で5サイクル使用し、燃焼度61MWd/kgU(注:61MWd/kgU=61GWd/t)まで照射されたものである。これらの燃料棒にパルス照射を行ったところ、FK-6では293J/g(70cal/g)、FK-7では260J/g(62cal/g)で破損した。…2つの実験において、被覆管がいずれも3つの破片に壊れ、すべての燃料ペレットが細かい破片粒子に砕けて、冷却水中に飛散した。(実験の)カプセル水中から回収された燃料の粒子はふるい分けられ、約半数のペレットが0.1mm以下になっていることが確認された。」(甲124号)

このBWRについての最新の知見は、RIA報告書にある新しい破損しきい値を変えるものではない。しかしこの実験は、BWR原発でもPCMI破損により燃料が粉々に破壊されうることを示し、さらにPCMI破損しきい値にギャップが関係していることを示唆している。というのは、破損を起こしたのはステップU型の高燃焼度燃料であるが、「ステップU型燃料はステップI型燃料に比べて、ペレット-被覆管ギャップが狭く、燃料の密度も高くなっている。」(甲124号)のである。ステップT型を用いた同様の実験(FK-1〜3)では破損は生じていない。

この実験事実は、債務者の福島第二原発において、燃焼されたペレットが提供されたのであって、当然のことながら、債務者もよく承知しているはずである。原子力発電所を運転管理する事業者として、安全上の問題では最も保守的に評価しなければならない立場にある債務者が「制御棒落下事故の影響については…ペレットの外径寸法の不具合によって破損が発生しやすくなるというものではない」(債務者準備書面P24)と述べ、ペレット外径は破損の発生条件には影響しないと決めつけていることは、全く信じ難いことである。

6 破損した燃料棒による流路閉塞

本件MOX燃料導入に際しての、債務者による原子炉設置許可変更申請書によると、制御棒落下事故では、RIA報告書の新基準が厳しくなったために、破損する燃料棒の数が5%(甲126号10-3(3)-26))(約1860本に相当)と、以前の解析結果(約1530本(甲125号10(3)-3-63))より増えた。そればかりでなく、新たな実験からの知見によれば、燃料棒が単に破損するのではなく、燃料が粉々になって冷却水中に飛び出すと考えなければならない。ところが、その場合にRIA報告書では、粉々燃料が冷却水の流れを妨げて炉心の冷却を損なうという問題は一応立てられてはいるものの、具体的な検討がいっさい行われていない。

 さらに、前述の福島第二原発の燃料を用いた新たな実験によれば、「被覆管がいずれも3つの破片に壊れ」(甲124号)燃料棒が3つに分断されている。その場合、真ん中の部分は冷却水中に漂うことになるが、燃料棒間は狭いのでひっかかり、そこにさらに粉々燃料が貯まって流路を閉塞することになる。また分断した上下部分も振動を起こす。このような流路閉塞の影響は全く考慮されていない。流路閉塞により、原子炉の冷却を妨げ、炉の健全性を損なう恐れある。

 まして、MOX燃料となると、このような燃料の粉々破裂、燃料棒の分断がいっそう激しくなると予想されるが、そのような実験も考察もまったく皆無の状況である。この点でも、MOX燃料を用いた場合の安全性は確かめられていないのである。

7 BWR原子炉におけるMOX燃料の品質管理の重要性(ライマン報告書の重大な指摘)

 BWR原発用MOX燃料の安全性の問題については、「核管理研究所(NCI)」科学ディレクターのライマン博士は、「沸騰水型原子炉におけるMOX燃料の品質管理の重要性」という報告書(甲116号)の中で、制御棒落下事故だけでなく、出力が大きくなったり小さくなったりが繰り返される「出力発振」と呼ばれる、BWR原発特有の「異常な過渡変化」においてもPCMI破損について考慮すべきであることを指摘した上で、以下のように結論している。

「発振型の過渡変化の際のPCMIに対するBWR燃料の脆弱性が、燃料の初期P/Cギャップに大きく左右されるという点を考慮すれば、過渡変化の際の高燃焼度BWR燃料の安全性について高度の保証を提供するうえで、燃料製造時のP/Cギャップの非常に厳密な管理、それに、燃料の照射の際のギャップの変化についての十分な理解が、極めて重要である。

この勧告は、反応度事故の際のMOXの安全余裕がより小さいことを考慮すれば、MOX燃料についてはさらに緊急のものである。ペレットの外径の20ミクロンの不確実性――福島向けMOX燃料の現在の寸法公差――は、P/Cギャップの変化との関連でいえば非常に重大な意味を持つものであり、したがって、大きすぎて受け入れられるものではないと思われる。根底にある現象についての完全な理解が、とりわけMOX燃料に関しては、得られていないから、製造過程における厳密な品質管理と安全余裕の維持は、燃料が深刻な事故に耐えられるとの確信を維持する上で極めて重要な措置と思われる。

MOX燃料のパーフォーマンスの不確実性は、反応度事故の際の高燃焼度MOX燃料の反応についての実験データの不十分さから来る根本的な帰結である。データベースのギャップは、許可された最大の燃焼度を持つMOX燃料棒に関して行う厳密な実験プログラムによってのみ埋めることができる。制御棒落下と出力発振の両方の条件を研究しなければならない。また、初期P/Cギャップ寸法の影響も評価する必要がある。したがって、日本のMOX利用計画は、本格的照射の際に経験されるのと同じ条件の下で行う徹底的な先行試験照射計画を行うまで、実施を許可すべきでない。このようなテストなしにMOX使用を許すのは、極めて無責任だと私は考える。」(甲116号訳文P5)

8 福島が「実験場」に

 もし、このままMOX燃料の装荷を許すことになれば、債務者は、燃焼の進んだMOX燃料の挙動がどうなるのか、PCMI破損がどの程度のエネルギーで発生するのか、しかもはじめから燃料ペレットと被覆管のすき間がなくなっているような不良ペレットを多く含んでいる場合にはどうなるのか、という「実験」をいきなり実機で、福島を「実験場」に行うことになる。こんなことが許されるわけがない。通常の実験であれば、実験装置内でわざと「事故」を起こすのだが、債務者が目論む福島での「実験」では、「事故」が発生してしまったらもう手遅れなのである。

 

第七 重大事故の影響

 適正な検査を経ない規格外の不良ペレットが混入した状態で原子炉を稼動すれば、重大事故が発生し、重大な被害を生ずる可能性がある。(甲55号)

 

一 不良ペレットを装荷した場合の事故の影響

 不正な大きさのMOX燃料ペレットが使用されていれば、炉心に挿入されていた制御棒が落下する事故が起きたときに、破損してしまう燃料棒の数や損傷の程度が安全審査の想定を超える事態が起こりうる。このことはさらに、破損した燃料によって冷却材や再挿入しようとした制御棒の進路までふさぎ、高圧力下での炉心溶融事故を引き起こす可能性も否定できない。その場合には、溶融した炉心によって圧力容器が破壊されるだけでなく、格納容器や一部の工学的安全装置の機能喪失を招き、環境中に大量の放射能を放出・拡散させることになる。福島第一原発3号機でこのような苛酷事故(シビアアクシデント)が起きた場合の災害評価について考えてみる。

 

二 災害評価の条件

 原子力資料情報室の高木仁三郎氏と上澤千尋氏は、国際MOX 燃料評価プロジェクトの最終報告書『MOX総合評価』(七つ森書館、1988年)(甲3号)において、電気出力110万キロワットの沸騰水型炉におけるMOX燃料使用における被曝災害の評価を行っている。同じ手法で行った出力78.4万キロワットの福島第一原発3号機に対する結果をここに示す。

 アメリカ合衆国の原子力委員会のWASH−1400(ラスムッセン報告、1975年)とよばれる事故災害評価報告の手法に基づいて、原子力発電所の巨大事故時に原子炉からエアロゾル化した放射性核種が環境中に放出され広がり、それにより近隣住民に引き起こされる被曝線量の計算を行った。

 MOX燃料を使用したの炉心には、プルトニウムをはじめ、アメリシウムやキュリウムの同位体など人体に多大な内部被曝をもたらすアクチノイドが、ウラン燃料だけの炉心に比べて、10倍程度多く含まれており、このため健康への影響が桁違いに大きなものになる。

 この事故評価に際して,採用した事故のシナリオは次のようなものである。BWR−1の事故をベースに、MOX燃料使用時の事故規模の拡大を考慮して、チェルノブイリ級のランタノイドの放出を想定すべきと考えるので、ランタノイド元素の放出量を炉心内蔵量の4%とした。

BWR−1タイプ事故(WASH−1400)とは以下のようなものである。すなわち、ECCS(緊急炉心冷却系)を含む炉心冷却系が故障し、炉心が溶融する。溶融した炉心は原子炉の底に落下し、底に残っていた水分と反応して水素爆発を起こす。格納容器が破壊され、溶融した燃料のかなりの量が大気中に放出される。

 

三 MOX燃料はウラン燃料の2倍の被曝線量

 計算の結果、この事故想定により、単純に原子炉から同距離同方位にいる人の被曝線量はMOX燃料を使用する原子炉の方がウラン燃料だけの時に比べて、2倍以上にも達することがわかった。

 同じ被害を与える距離で両者を比べると、BWR−1タイプ事故では、ウラン燃料だけの原子炉でも全員死亡の範囲は原子炉から15.3キロメートル(6シーベルト)、半数死亡は29.0キロメートル(3シーベルト)、顕著な急性障害が現れる範囲も67.0キロメートル(1シーベルト)とすでに大きな災害であるが、MOX燃料を使用した場合にはさらに大きなものとなる。MOX燃料を使用した原子炉では,全員死亡の範囲は原子炉から32.9キロメートル、半数死亡は56.4キロメートル、顕著な急性障害が現れる範囲は126.3キロメートルにも拡大する。MOX燃料を使用した原子炉では、同じ災害規模の範囲の距離がウラン燃料だけの原子炉に比べ、2倍に拡大しており、これは被害を受ける面積で比べると実に4倍にも拡大していることを意味する。居住地や農地を放棄せざるを得ないことなど、社会的な影響を考慮に入れた被害規模はさらに大きなものとなるであろう。

 

四 福島第一原発3号機で事故が起きた場合の災害評価結果

 また、より具体的な人体への健康影響をみるために、福島第一原発3号機で巨大事故が起き、首都圏に向かって、一定の気象条件の下(風速毎秒4メートル、天候は晴れ、大気安定度D)で放射能が広がった場合を考える。

 原子炉から風下約300キロまでに放射能が広がって住民が被曝した結果、MOX燃料を使用した原子炉では将来的に100万人以上の人々がガンによって死に至る健康被害が出てくることが予想される。これはウラン燃料だけの原子炉の場合に比べ、2倍以上の深刻な被害が首都圏にまで及ぼすことを意味している。

 ここに示したのは必ずしも最大の被害を与える事故ではない(甲4号116頁)。炉心の損傷が引き起こされるような事故の一例についての考察結果であって,気象条件や人口の分布,また事故の想定規模次第ではもっと大きな被害結果がでるであろうことは想像に難くない。

 炉心の損傷が起きたときには、東京電力や国の事故解析では、現実的な事故にはとても対応できない。このことは、安全審査指針(発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針など)による格納機能がいつでも保持されるという条件、すなわち放射能の大量放出はあり得ないとすることが安全審査上の不備であるかを示すものである。

 MOX燃料を使うことだけでも危険性が増すのに、不正につくられた疑いのある燃料ペレットが使用される燃料棒中に使われているとなれば、そのときの事故の危険性は膨らむばかりである。

 

第八 立証責任

 

一 本件の争点

本件は、債務者が所有する原子力発電所において使用する燃料の健全性を問題とし、健全性に欠ける燃料を使用した場合の危険性を争点にするものである。具体的に本件MOX燃料ペレットに関する資料はすべて債務者が保持している。また、原子力発電所の安全性に関する全資料も債務者が保持している。以上の状況を考えれば、具体的な立証の分配、負担は次のとおりになされるべきである。

 

二 女川判決の原則

債権者らは、平成6年1月31日仙台地方裁判所においてなされた東北電力女川原発訴訟第一審判決が明言した以下の原則に立つべきであると主張する。

同判決は立証責任について、原告側に

「原告らは、@原子力発電所の運転による放射性物質の発生、A原子力発電所の平常運転時及び事故時における右放射性物質の外部への排出の可能性、B右放射性物質の拡散の可能性、C右放射性物質の原告らの身体への到達の可能性D右放射性物質に起因する放射線による被害発生の可能性について、立証責任を負うべきことになる」

とし、被告側に対して、

「右のとおり、原告らは、既に前記@ないしDの点について原告らの必要な立証を行っていること、本件原子力発電所の安全性に関する資料をすべて被告の側が保持していることなどの点を考慮すると、本件原子力発電所の安全性については、被告の側において、まず、その安全性に欠ける点のないことについて、相当の根拠を示し、かつ、非公開の資料を含む必要な資料を提出したうえで立証する必要があり、被告が右立証を尽くさない場合には、本件原子力発電所に安全性に欠ける点があることが事実上推定(推認)されるものというべきである」とした。「そして、被告において、本件原子力発電所の安全性について必要とされる立証を尽くした場合には、安全性に欠ける点があることについての右の事実上の推定は破れ、原告らにおいて、安全性に欠ける点があることについて更なる立証を行わなければならないものと解すべきである」と述べる(判例時報1482号23頁)。

右判断は極めて妥当であり、同判決に対する評釈においても

「本判決では、被告に対し『非公開の資料を含む必要な資料の提出』を要求している部分も注目される。判決は、原発の安全性の立証について電力会社側の積極的な協力を要求しているものと思われる。判決理由中の本件一号機で生じた不具合等を論じた箇所において、被告による具体的データ開示の不十分さが批判されている。さらに、判決理由第九章(本件原子力発電所の必要性)の末尾の箇所でも、被告側の情報提供の不十分さに言及されている。本判決の立証責任論は、主張・立証について事実上被告の責務を加重したに留まるが、安全性の主張・立証について被告電力会社の側に要請される部分は大きいと言えよう」と高く評価されている(ジュリスト重要判例行政法5)(甲36号ノ1)。

 

三 本件の立証責任

これを、本件の争点について考えると、まず検査データが適正であるか否かについては、債権者らは具体的な根拠を示してデータが適正でなく規格外ペレットが混入していることを強く推認させる証拠を既に提出した。これに反証することは債務者側の責任である。債務者において、本件検査が適正になされたことを証明する確かな証拠を入手して提出されないかぎり、データに不正があったとの事実が確定されるべきである。

 第二に債権者らにおいて、規格外ペレットが混入する燃料を装荷して運転すれば、安全評価基準による安全評価はなされておらず、安全評価において事故が生じた場合にも放射能を閉じこめることができるという防護機能の保証がない可能性を立証すれば、債務者において、放射能が外部に排出されないこと、安全性は保証されていることを、相当の根拠を示し、かつ、非公開の資料を含む必要な資料を提出したうえで立証する必要があり、債務者において右立証を尽くさない場合には、放射能排出の危険性があることが事実上推定されるというべきである。

 第三に、債権者らにおいて科学的知見に基づく文献を基礎に被害の可能性までを立証すれば、債務者において、右可能性を否定する立証をなさないならば債権者らの被害の可能性の主張が認められなければならない。

 

結論

以上の通りであり、本件MOX燃料には、品質管理データの操作が明らかになったこと、このような燃料を使用した際の安全評価が存在しないこと、重大な事故が起こりうることが論証された。よって債権者の申立を認め、本件MOX燃料の装荷はこれを認めないという決定をすみやかに下すべきである。

 

 

 

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